ヒロの婚活心理学

“きっとうまく行く”が、婚活を救う!──自己効力感という心の力 婚活心理学Vol.26

2人でハートマークを作るカップル

「婚活がつらい」「もう頑張れない」「疲れた」
──そんな心の声が聞こえてきそうな時代に、いま改めて問いたいのが、「自己効力感」という心理学の力です。


これは“私はきっとできる”という未来への感覚。
心理学者アルバート・バンデューラが提唱したこの概念は、自己肯定感や自信とは異なり、「行動することが未来を変える」と自分を信じる力に他なりません。


婚活において、この“行動への信頼”こそが、最大の分かれ道です。どんなに魅力があっても、どんなに誠実でも、「やってみよう」と思えなければ、関係は始まりません。
逆に、完璧でなくても「やってみよう」と思えた人は、出会いを引き寄せ、関係を育み、成婚への道を歩みはじめることができる。

つまり、自己効力感は婚活を前に進める“心のエンジン”なのです。


この論稿では、「婚活に疲れた」と感じているあなたにこそ読んでほしい、心理学の知恵をお届けします。
自己効力感の正体とは何か?


なぜ婚活者はこれを失いやすいのか?
どうすればふたたび取り戻せるのか?

そして、どうすればそれを“誰かと一緒に”育て、親密な関係性を築く力へと、変えていけるのか。


結婚とは、条件のマッチングや、良い人との出会いが全てではありません。
「もう一度、誰かとやってみてもいい」と信じられることから始まる、あなただけの人生脚本=新しい人生を切り拓く航海の物語です。



【目次&内容】

婚活心理学Lesson序|「もう無理かも」と思った夜に

婚活心理学Lesson 1|“予感としての自信”──バンデューラの自己効力感とは?

婚活心理学Lesson 2|自己効力感 vs 自己肯定感 vs 自己愛──よく似た違うもの

婚活心理学Lesson 3|「やってみよう」と思える瞬間──自己効力感が芽生えるとき

婚活心理学Lesson 4|「きっとうまく行く」と思える日常──自己効力感を育てる暮らしの習慣

婚活心理学Lesson 5|“一緒にやる”ことが、勇気を育てる──協働と効力感の心理学

婚活心理学Lesson 6|“効力感”は感染する──言葉・態度・関係のなかにある「信じる力」

婚活心理学Lesson 7|未来は、信じた分だけ開いていく──“自己効力感”が導く結婚のビジョン

婚活心理学Lesson補遺|アルバート・バンデューラと「自己効力感」理論の系譜


婚活心理学Lesson 序|「もう無理かも」と思った夜に


婚活がうまくいかない。その理由を、あなたは何度も考えたことがあるかもしれない。

──自分に魅力が足りないのかもしれない。
──異性を見る目がない、そんな自分にも責任があるのかもしれない。
──結婚が合わないのかもしれない。


けれど、そうやって自分を責めた夜のあと、心をもっとも疲弊させたものは、 「それでもまた動かなければいけない」という、言いようのない焦りだったのではないだろうか。


どこかでわかっている。次の一歩を踏み出さなければ、人生がなにも変わらないということを。
けれど、心がついてこない。踏み出す気力が、どこにも残っていない。


ここで問うべきなのは、「自分を肯定できているか?」「このままの自分で大丈夫?」という問いではない。
もっと根っこにあるもの大事なもの──それは、「(また)やってみてもいい」と再トライを、自分に許可を出せるかどうかだ。
失敗しても、また次の一歩を踏み出せるかどうかが人生を分ける。


だから、多くの婚活者が求めている“もっと自分に自信を持たないと”という言葉の正体は、 「完璧な自己肯定」ではなく、「ほんの少しの、行動へのゴーサイン」にすぎないのかもしれない。


心理学では、この“やってみてもいい”という感覚のことを、 **自己効力感(Self-Efficacy)**と呼ぶ。つまり、自分はやれる、そしてきっとうまくいく(うまくいかないはずがない)という、能動的な自己信頼が背景にある。


これは「私は魅力があるか?」ではなく、「私の一歩が、関係を変えるかもしれない」と信じられるかどうか。「自分がどんな人間か」ではなく、 「自分の行動によって状況を変えられると思えているか?」という、未来創造への感覚に関わっている。


そしてこの自己効力感こそが、 
人生を前に進ませる力の、原点なのだ。


この論稿では、心理学者アルバート・バンデューラの理論を手がかりに、 婚活における「自己効力感の再構築」について、わかりやすく、実践的に掘り下げていく。
──バンデューラその人や理論についても次章以降で詳しく触れる。

「私は、愛を求め続けてもいい」──その予感を取り戻すために。

もう一度書く。婚活がつらいのは、失敗が怖いからではない。失敗したあとに、もう一度人と関わろうとする勇気が、自分には 残っていないと感じるとき、人は本当の意味で立ちすくむ。私たちは絶望が怖いのだ。


けれど、その痛みの正体を知った今なら、 それは“あなたに問題がある”せいではなく、 「誰にも頼れずに、一人で頑張ろうとし続けたこと」が、 あなたを知らず知らずのうちに追い詰めてきたのだということにも、気づけるはずだ。
──つまり、もっとうまくいく知識とスキルを知らなかったからだ。


この先の章では、どうすればその痛みから抜け出し、 周囲と、婚活相手と、“一緒に幸せをつくる力”へと変えていけるのかを、 あなたとともに丁寧に見つめていこう。


「(また、あるいは何度でも)やってみてもいいかもしれない」 その感覚を、もう一度あなたの中に甦らせるために──。


後ろ手にハートを隠し持つ女性

婚活心理学Lesson1|“予感としての自信”──バンデューラの自己効力感とは?



あなたの心の中に、こんな声が響いたことはないだろうか。


──「どうせ、またうまくいかない気がする」
──「わかってるけど、もう頑張る気力がない」
──「またやっても、意味ない気がする」

この声に耳を澄ますと、そこには一つの共通した感覚がある。


それは、“未来を信じられない”という感覚。もっと正確に言えば、「自分が行動しても、未来が変わるとは思えない」という感覚だ。


心理学者アルバート・バンデューラは、この感覚の背景にあるものを「自己効力感」と名づけた。
Self-Efficacy──直訳すれば「自己による効果への信頼」。


もう少し噛み砕けば、「この行動を選べば、何かが変わるかもしれない」という、心の中の静かな予感である。
この自己効力感こそが、人を前に進ませる力の原点だ。


「自信がある」とは、どういうことか?


「自信がある/ない」という言葉は日常的に使われているが、その“自信”がどんな性質のものかを正確に説明できる人は多くない。
バンデューラはこう述べている。


「人は、何かをうまくこなす能力を持っていても、それを実行できるという信念がなければ行動を起こさない」
ここに、自己効力感の本質がある。


たとえば、目の前に腰の高さほどの跳び箱があるとしよう。跳ぶ技術があっても、「きっと跳べるはず(やればできる)」という確信めいた感覚がなければ、足は地を離れない。
つまり、能力そのものよりも、“その能力を使ってもいい”と自分に許可を出せるかどうかが、行動のトリガー(引き金)になるのだ。


婚活の現場でもよくある話だ。
「ちゃんと話せる能力はあるのに、沈黙してしまう」という人がいる。これは能力の問題ではない。
「自分が話しても、相手との関係が良くなるとは思えない」という“効力感の欠如”による反応である。


逆に、「うまく話せないかもしれないけど、とりあえず話しかけてみよう」と思える人は、たとえ言葉が拙くても、関係を一歩進めることができる。
この“行動に移す力”こそが、自己効力感の核心である。


なぜ、いま「自己効力感」が問われているのか?


かつての恋愛や結婚には、“始まってしまえばなんとかなる”という文化的前提があった。
出会い方も、関係の進め方も、ある程度の“型”が共有されていた。

けれど現代では、その型が完全に崩れている。
マッチングアプリに象徴されるように、恋愛も結婚も「自分で選び、自分で決める」時代に入った。
誰かが敷いてくれる安心なレールは、もはや存在しない。


その結果、人は「選べる自由」と引き換えに、「選べなかったことの責任」までも個人で背負うようになった。
関係がうまくいかないとき、「自分の選び方が悪かったのでは?」と、自責に傾いていく。


こうした“自己責任化された婚活”において、従来の「自己肯定感」や「自己評価」だけでは、人は動けなくなる。
ここで問われるのは、「私は、また選びなおす力を持っているか?」という行動の可能性への信頼だ。
それが、自己効力感である。


自己効力感は、未来への「予感」である


この自己効力感は、過去の成功体験や能力から来ることもあるが、むしろ“まだ見ぬ未来への信頼”として芽生えることの方が多い。


それは、「今はうまくいかないかもしれない。でも、やってみたら何かが動くかもしれない」という予感のような希望である。
この予感は、完璧な自己像や“ポジティブ思考”からは生まれない。


むしろ、心に傷がある人こそ、「でも、まだ諦めきれない」という感覚とともにそれを持っている。
だからこそ、自己効力感は「自信満々な人」の特権ではない。
不安があっても、過去に失敗を抱えていても、「それでも、自分の一歩に意味があるかもしれない」と思えること。
その瞬間から、自己効力感は芽を出し始めるのだ。


婚活とは、「自己効力感を持ち直す」関係性の旅である


婚活とは、条件の整合性だけで進める“計算づくの選択”ではない。
もし婚活が単なる条件マッチングの作業であれば、スペックや価値観を並べて、最適解を機械的に導き出すことができるだろう。
年収、学歴、年齢、身長、趣味の一致──数字や情報を並べて分析し、相性の“正解”を選ぶという発想。

だが、現実の婚活はそれほど単純ではない。条件がぴったりでも、心が動かないことがある。逆に、想定外の相手と出会ったときにこそ、関係が芽生えることもある。


過去にもこんな成婚例があった。
国家公務員の女性が、自分と同等かそれ以上の男性とのお見合いを繰り返していた。どうしても、心を許せるほどの親密な関係を作れなかった。
もう結婚自体をあきらめかけた時に、一回だけ、年収や学歴の条件を外してみた。専門学校卒の男性から申し込みがあり、興味本位で会うことにした。
彼女はたちまち意気投合し、恋に落ちた。お相手は、一流ホテルを渡り歩く凄腕のパティシエで、彼には大きな夢があった。


つまり、婚活とは人と人との“関係性”をどう築いていくかという、論理では割り切れない、揺らぎと応答のなかで自己を信じなおす実践なのだ。
誰かと出会い、期待し、傷つき、また期待しなおす──その繰り返しのなかで、私たちは何度も“効力感”を失い、また取り戻すことになる。


この旅の出発点に必要なのは、「私の行動が、未来を変えるかもしれない」という小さな信号である。
それが自己効力感であり、そしてこの感覚は、一人きりでは育ちにくい。
次章以降で見ていくように、この“予感”は他者との関係性、誰かのまなざし、寄り添う言葉の中でこそ育っていく。


次章では、「自己肯定感」や「自己愛」との違いに焦点をあてながら、なぜ“効力感”こそが婚活を動かす力になるのかをさらに掘り下げていく。
それは、“愛される価値を証明するため”ではなく、“誰かとともに幸福を築くため”の土台だからである。


自己陶酔顔の若い女性

婚活心理学Lesson2|自己効力感 vs 自己肯定感 vs 自己愛──よく似た違うもの


「自信がないんです」
結局のところ、この一言に尽きる。婚活カウンセリングで最も多く耳にするこの言葉は、しばしば「自己肯定感が低い」「自己愛が弱い」という理解にすり替えられる。


だが、それは本当に“自己肯定感の問題”なのだろうか?
あるいは“自己愛”が足りないから、うまくいかないのだろうか?


──いや、違う。
問題の本質は、「自分に価値があるか」ではない。「この私に、何ができるか」(できる気がしない)が問われているのだ。


自己肯定感は、“評価”である


自己肯定感とは、ざっくり言えば「私はこれでいい」と思える感覚。たとえ欠点があっても、あるがままの自分を受け入れようとする態度。
それは安心や安定を与えるが、必ずしも“行動のエネルギー”には結びつかない。

たとえば、「自分は人見知りだ」と認めて受け入れても、「それでも話しかけてみよう」と一歩を踏み出すとは限らない。
自己肯定感は“状態の肯定”であって、“行動への推進力”とは別物だ。

だからこそ、どれだけ自己肯定感を高めても、動けない人がいる。
問題は「自分を認めるかどうか」ではなく、「自分の行動に意味を感じられるかどうか」なのだ。


自己愛は、“傷の覆い”になることもある


自己愛はもっと繊細で、複雑だ。精神分析では「ナルシシズム」とも呼ばれ、自分を理想化したり、自分への注目を欲したりする心理を指す。
自己愛が強い人は、自信があるように見える。しかしその実態は、自己像の崩壊を恐れている人でもある。
「選ばれたい」
「特別だと思われたい」
「愛されたい」
──それらは決して悪い願望ではない。

だが、自己愛が強すぎると、相手のまなざしに過敏になりすぎて、自分の行動が制限されてしまう。
たとえば:

  • 「嫌われたくないから、本音が言えない」
  • 「振られるくらいなら、最初から近づかない」
  • 「自分が傷つく前に、相手に失望したふりをして離れる」
  • 「相手の気持ちに確信が持てるまで、自分は一切出さない」


こうした回避行動は、自己愛ゆえの“自己防衛”だ。
だがそれでは、本当の関係性に踏み込むことはできない。


自己効力感は、“行動する自分”への信頼


では、自己効力感とは何か。
それは、「私の行動には力がある」という実感。「この行為が、未来に届くかもしれない」という、静かな信頼。肯定感や愛着とは違い、それは“やってみる自分”を肯定する感覚のことだ。

自己効力感は、行動することでしか育たない。どれだけ思索しても、内省しても、それは芽生えない。
一歩を踏み出したとき、たとえ結果がうまくいかなくても、「動いた自分」によって確かめられるもの。
たとえば:


「LINEを送って、既読スルーされたらどうしようって思ってしまって、結局送れませんでした」
「次のデートに誘いたいけど、“忙しいんで”って断られたら立ち直れない気がして、踏み出せません」
「お見合いの最後に『またお会いしたいです』って言おうとしたんですけど…相手の表情を見た瞬間、やっぱやめようって引っ込めてしまいました」
「自分から話題を振っても盛り上がらなかったらと思うと、最初の一言が出てこないんです」
「手を繋ぎたいと思ってるのがバレたら、気持ち悪いって思われそうで、距離が詰められません」
「断られたら終わりだから、誘う前に諦めてしまうんです」
「自分のことばかり話してしまいそうで、結局黙ってしまうんです」
「前に“重い”って言われたことがあって、それ以来、踏み込めないんです」


これらのセリフには、「自分の行動が、相手に受け入れられる未来につながる」という“予感”が持てない苦しさが表れている。
そして、それこそが自己効力感の不足によって生じる“行動のブレーキ”だ。


効力感は、“関係性の中でしか育たない”


そして忘れてはならないのは、この効力感は決して“ひとりきりで”は育たないという事実だ。
誰かのまなざし、誰かの応答、誰かの「うん、それでいいんだよ」という共鳴。
そうした“関係性のなかの肯定”が、行動への信頼を後押しする。


婚活において、誰かと出会い、関わり、すれ違いながらも前を向こうとする行為そのものが、自己効力感を鍛えていく。
それは、自己を証明する試練ではない。
他者とともに生きようとする、静かな希望のプロセスなのだ。
そして、誰かと“うまくいった”という経験が積み重なっていくとき、私たちの内側に芽生える言葉がある。
──「もしかしたら、次はうまくいくかもしれない」
この“かもしれない”が、婚活を救う。


何かを必死に祈る男性

婚活心理学Lesson3|「やってみよう」と思える瞬間──自己効力感が芽生えるとき


婚活が行き詰まると、人は「自分には価値がないのではないか」と思い込みがちになる。だが、問題の本質はそこではない。
「どうせうまくいかない」「行動しても、相手は変わらない」という“未来に対する肯定的な予感”が持てなくなったとき、人の心は深く鈍り、動けなくなるのだ。


未来のどこかに光が差すかもしれない──その感覚がなければ、一歩を踏み出すことすらできなくなる。
では、人はどんなときに「やってみよう」と思えるのか。
自己効力感が芽生える瞬間には、ある種の“風景”がある。


  • 相手のちょっとした笑顔
  • 話を聴いてくれたという実感
  • 目が合ったときの、ささやかなあたたかさ
  • 一言「ありがとう」と返ってくる応答


それらは「大丈夫そう」「一方的に拒絶されることはなさそうだ」という、関係の安全を知らせる微細なシグナルだ。
自己効力感とは、自分を信じる力であると同時に、“関係のなかに安心を見出せる力”でもある。

たとえば、相手の眼差しに逃げずにこちらを見てくれる気配があったとき、ふと胸の奥にこう浮かぶ──「この人なら、もうちょっと踏み込んで話してみてもいいかもしれない」「ここでなら、自分を出しても拒まれないかもしれない」。

その“行っても大丈夫そう”という感覚こそが、自己効力感の芽生えの瞬間である。


ある女性はこう語った。
「最初は、本音を言うのが怖かったんです。相手がどう思うか、嫌われないかって。でも、何度かやり取りする中で、彼がちゃんとこっちの話に耳を傾けてくれて、“わかろう”としてくれている感じが伝わってきた瞬間、あ、今なら少し深い話をしてもいいかもしれないって思えたんです」


その“今ならいけるかも”という直感。
それは勇気というよりも、安心のなかで芽生える自然な動きだ。

自己効力感は、こうした“ささやかな一歩”の成功体験の積み重ねによって育っていく。
たとえば──


  • 「前より話せるようになった気がする」
     → ある男性は、初回デートでは無難な話ばかりしていたが、3回目の食事のとき、自分の転職の悩みを自然に口にできた。「前は怖くて言えなかった。でも、彼女がじっと黙って聴いてくれたことで、気づけば話していた」と語る。
  • 「言えなかった一言が言えた」
    → ある女性は、「私は結婚後も仕事を続けたい」という価値観を言い出せずにいた。しかし、ある日ふとしたタイミングで「私、仕事を続けたいって思ってる」と言えた。相手がそれを肯定的に受け止めてくれたことで、自信につながったという。
  • 「断られても、自分を責めなくなった」
    → ある男性は、交際終了の連絡を受けた後、以前のように「自分がダメだからだ」とは思わなかった。「ちゃんと向き合った結果なら、それでいい」と思えたのは、過去の小さな成功体験の積み重ねがあったからだった。


──これらはすべて、自己効力感の芽が出てきた証拠だ。
それは孤独な達成ではない。
誰かとともに踏み出し、関係のなかで確かめられた“応答の実感”こそが、自己効力感の根である。
婚活とは、自己を証明するための勝負ではない。

人とのあいだに、小さな橋を架け続ける作業だ。
そして、その橋を「渡ってみようかな」と思える瞬間こそ、自己効力感が芽吹く時なのだ。


瞑想中の若い女性

婚活心理学Lesson4|「きっとうまく行く」と思える日常──自己効力感を育てる暮らしの習慣


自己効力感は、特別な出来事からしか生まれないわけではない。

むしろ、婚活における効力感とは、日々のふとした瞬間や、ささやかな人との関わりのなかに根づいていく。

だからこそ、自分の内側に「きっとうまくいく」という感覚を宿らせるには、毎日の暮らしそのものを丁寧に耕し続けることが必要なのだ。

正に持続は力なりだ。


たとえば、毎日、自分の考えや感情を“メモする”だけでも違う。
「今日はLINEでこんな会話ができた」
「デートで、ちょっと言いたいことを言えた」
──そんな小さな達成感を意識的に残すことが、自己効力感の“記憶の苗床”になる。


ある女性は、カウンセラーからジャーナリングを勧められ、「自分の気持ちを文字にしているうちに、少しずつだけど、自分が変わってきた気がする」と話していた。

彼女はお見合いのあと、「今日は自分から“会えてうれしかった”って言えた」とか、「次はもっと相手の話を聞こう」といった具体的なことをノートに書き残していた。


最初は会話のぎこちなさにばかり意識が向いていたが、3回目のデートを終えたあとには、「彼の家族の話を引き出せたのが嬉しかった。たぶん、少しは信頼されてきたのかも」と綴るようになったという。


もうひとつ、日常の中でじわじわと効いてくるのが、「フィードバックをもらう」ことだ。 信頼できる友人や婚活カウンセラーとの対話のなかで、
「今のあなたのその言葉、ちゃんと伝わっていたと思うよ」
「以前より、表情がやわらかくなったね」といった言葉をもらう瞬間がある。


それは、自分ひとりでは決して辿り着けない、心の奥深くにある“可能性の灯”を照らしてくれる他者のまなざしだ。
人は、他者の眼差しに映った自分を通して、はじめて「これが自分だ」と腑に落とせるようになる。
そしてその“映り込み”によって、「できるかもしれない」は、ただの願望ではなく、現実のなかに芽生えはじめた確信へと変貌する。


さらに重要なのは、「完璧にやらなくていい」と自分に言ってあげる習慣だ。婚活の場面では、どうしても“うまくやらなければ”という焦りがつきまとう。 だが、自己効力感とは、“常にうまくやれる自分”を目指すことではなく、“うまくいかなくても関係性は壊れない”と信じられる心の余裕のことだ。


ある男性はこう語った。「それまで沈黙が怖くて、間を埋めようと必死だった。でも、あるときふと黙ってもいいかと思えた瞬間があって、そこから楽になった」。
この“黙っても大丈夫”という感覚は、自分を取り繕わずとも関係が壊れないという安心から生まれる。つまり、相手の前で自然でいられることが、関係性への信頼を強め、行動の自由度──すなわち自己効力感──を高めてくれるのだ。


自己効力感は、「やってみよう」から始まり、「やってみても壊れない」という信頼へと変わっていく。
そしてこの信頼は、何気ない日常の積み重ねからしか育たない。
婚活とは、非日常の挑戦ではなく、日常における“他者との些細な協働”なのだ。それを楽しめる人にこそ、「(いつか)きっとうまくいく」という声が、心の底から聴こえてくるようになる。


一緒に料理をする若い男女

婚活心理学Lesson5|“一緒にやる”ことが、勇気を育てる──協働と効力感の心理学


自己効力感がもっとも深く、そして力強く育つのは、「一人でやれた」ときではない。

「誰かと一緒にやれた」と感じたとき──そのとき、心の奥底にある“自分にもできるかもしれない”という確信が、ゆっくりと芽を出す。

婚活という“孤独な戦い”に見えがちなプロセスも、実のところ「誰と一緒に歩むか」が、その体験の質と結果を決定的に左右している。


心理学者アルバート・バンデューラは、自己効力感の源泉のひとつとして「代理経験(vicarious experience)」を挙げた。

これは、他者が課題を乗り越える姿を見たり、他者と共に課題に取り組むことによって、「自分にもできるのではないか」という可能性の感覚が生まれる、というものだ。


婚活における代理経験とは、婚活仲間と悩みを分かち合うこと。カウンセラーやメンターと問題に向き合うこと。そして、交際相手との関係を“共につくる”という実感──これらが、他者を通じて自分を変えていく「内的変容の触媒」となる。


たとえば、仮交際中のある男性がこう語った。「LINEで送る内容、毎回これでいいのか不安になるんです」。

彼は、カウンセラーとのやりとりを通じて、「これは気遣いが伝わるね」「ここは少し重たく感じられるかも」といった具体的なフィードバックを受け取った。

最初は戸惑いもあったが、やがて彼は“伝えようとする勇気”を獲得していった。

そしてある日、「彼女の返信が、明らかにあたたかくなった気がするんです」と語ったとき、彼の中に“言葉が届いた実感”が宿っていた。


また、ある女性は言う。「いつも沈黙が怖くて、盛り上げ役を演じてばかりだった」。そんな彼女が、カウンセラーの提案で、あえて“頑張らないデート”を試してみた。

彼女の不安は大きかったが、実際には「彼が微笑みながら、自分のペースで話してくれたのが救いだった」と語った。

「ああ、自分が本当に求めていたのは、こういう穏やかな関係性だったのかもしれない」。

この気づきは、彼女の中に“素の自分のままでも愛されうる”という自己効力感を芽生えさせた。


婚活は、独りで抱え込めば抱え込むほど、重く、硬直してしまう。

しかし、視点を変えればこうも言える──「婚活とは、他者と協働するプロセスである」と。

誰かと共に課題に取り組むとき、人は「一緒ならできるかもしれない」という未来に出会う。自分ひとりでは越えられない壁も、共に歩む存在がいれば、“不安の壁”から“信頼の橋”へと変わる。


そして、この“協働”の最前線には、婚活中の相手自身がいる。受け身でもなく、引っ張りすぎるでもない、互いに“関与しあう姿勢”が生まれたとき、ふたりのあいだに「一緒にやれる感覚」が育つ。

それは、自己効力感と他者信頼感が交差する──最も人間らしい、あたたかな成長の地平である。


だからこそ、婚活を“ひとり語りのモノローグ”にしてはならない。誰かと悩みを語り合うこと、迷ったら言葉にして相談すること、そして何より、交際相手と「心のうち」をシェアすること──そのすべてが、自己効力感という名の炎を、静かに、しかし確実に灯していく。
「一緒にやる」ということ。それは、自分を信じる勇気の、もっとも確かなはじまりだ。


手を取り合う男女の手のアップ

婚活心理学Lesson6|“効力感”は感染する──言葉・態度・関係のなかにある「信じる力」


自己効力感は、個人の内面に閉じた力ではない。他者と関わるなかで育ち、他者に伝播し、やがて関係そのものを変えていく──それは、まるで“火種”のような心の力だ。


たとえば、「最近、ちょっと疲れてしまってて……正直、自信なくて」と漏らしたとき、「頑張ってたものね。誰だってそうなるよ。むしろ、それを言えるようになれたあなたがすごいと思うよ」と返された瞬間、じんわりと心がほぐれていく。

「こんなことで悩んでるなんてダメですよね」と自分を責める声に、「それ、すごく君らしいよ。向上心が高いから余計悩むんだよね。私も同じこと感じたことある」と寄り添われたとき、胸の奥に染み込む“あたたかい承認感”。

この経験を、誰もが一度は味わったことがあるはずだ。


効力感とは、単なる「できる・できない」の自信ではない。それは「私はここにいていい」「私はこの人と向き合える」「私は、いま、応答されている」という、もっと根源的な“存在の受容”と関わっている。

そしてそれは、言葉や態度、関係性の空気感を通じて、じわじわと相手にも染み込んでいく。


婚活においても、この“効力感の感染”は決定的な意味をもつ。

たとえば、ある女性が語った。「彼と話していると、なんか変に構えなくていいんです。沈黙があっても焦らないし、思ってることをそのまま言っても、ちゃんと聞いてもらえるってわかるから」。


この“なぜか”の正体こそ、相手の発する雰囲気──非言語のメッセージ──に含まれた「君はここにいていい」という効力感の提示である。

他者が自分を信じてくれているという感覚は、思っている以上に深く、強く、静かに心を満たす。


逆に言えば、婚活の場でしばしば起こる「自己否定の連鎖」は、この“効力感の感染”がネガティブに働いた状態である。

「どうせうまくいかない」「またダメだった」「何を話せばいいのかわからない」──こうした思いが重なっていくと、自分だけでなく、相手にもその無力感を伝えてしまう。

そしてその空気がふたりの間を満たすとき、「またうまくいかなかった」という“予言”が現実となってしまう。


だからこそ、最初に「信じる力の小さな炎」を灯す必要がある。

それは、自分の言葉で相手を尊重すること、自分の感情を素直に差し出すこと、「できない自分」を許しながら、それでも一歩踏み出してみること。


「こんなふうに自分のこと話せたのって、いつ以来だろうって思った」
「ちゃんと向き合ってもらえた感覚があって、ちょっと泣きそうになりました」
「今日の私、けっこう好きかもしれない」


そんな感想がふと口をついて出るとき、婚活はただの“活動”を超えて、“人間関係の回復”という本質に触れ始めている。

そしてその回復の鍵を握っているのが、「効力感」という静かであたたかな心の力なのだ。


手を繋ぐ男女の腕のアップ

婚活心理学Lesson7|未来は、信じた分だけ開いていく──“自己効力感”が導く結婚のビジョン


「結婚できる気がしない」

「誰にも選ばれない気がする」──そう語る婚活者に、私たちは何を差し出せるのだろうか。


その答えのひとつが、「自己効力感」だ。だがそれは、単なる「自信」ではない。
なぜなら、私たちはその“自信”の正体を取り違えてきたからだ。「自信」とは、他者に認められることだと思っている。
「すごい」「努力家だ」「優秀だ」と言われて育てば、自信がつく──そう信じてきた。


だが実際は、誰かに認められても、どこかで不安が消えない。もっとがんばらなければ、もっと好かれなければ、もっと完璧に……と、
終わらない条件のゲームを繰り返している。


それは、日本人の多くが、子どものころから「まちがえないこと」「迷惑をかけないこと」を最優先に育てられてきたからかもしれない。
「失敗してもいい」「やってみなさい」「大丈夫、あなたなら」──そう背中を押されるよりも先に、「調子に乗るな」「目立つな」「迷惑を考えなさい」といった言葉で、行動を抑制されてきた記憶が、知らぬ間に“効力感の芽”を摘み取ってしまっていたのではないか。


「あなたのままで大丈夫」と言われた記憶よりも、「周りに迷惑をかけるな」と言われた記憶のほうが、心に根を張っている人が多い社会。残念ながら、それが、日本の精神的な土壌なのかもしれない。
だからこそ、「私にもできるかもしれない」と思える、その小さな種──それが、どれほど貴重で、どれほど尊いかを、あらためて思い出したい。


「もしかしたら、私をちゃんと見てくれる人がいるかもしれない」
「言葉にすれば、きっと伝わるかもしれない」
「怖いけれど、一歩だけなら踏み出せるかもしれない」


──この“かもしれない”の感覚こそが、人を動かす。完璧な確信でも、根拠のある楽観でもない。
だが、ほんの少しでも未来に向けて開かれたこの感覚こそが、結婚という未知の関係性へ向かう“覚悟の芽”となる。


私たちは、過去の失敗や傷から学ぶだけでなく、その痛みを誰かと語り直すことで、「それでも未来をつくろう」と思えるようになる。
そして、その「語り直し」が起こる場所こそが、婚活という関係性のフィールドなのだ。


婚活とは、たんに結婚相手を探す営みではない。それは、「誰かと共に生きる未来」に、もう一度コミットするという精神的挑戦だ。
その挑戦に必要なのは、「愛されるに足る私」を確信することではない。

むしろ、「愛されていい」と思ってみること。

何度でも「この出会いを、信じてみよう」と思ってみること。


それは、無理に自分を肯定することでも、無根拠に希望を持つことでもない。
“信じてみる”という選択──それが効力感である。

信じた分だけ、未来はひらいていく。
そのひらけた未来の先に、誰かと手を取り合って歩いていく自分が見える。
そう信じられることから、婚活は、結婚に向かって着実に再び動き始める。


銀の指輪リングのアップ

補遺|アルバート・バンデューラと「自己効力感」理論の系譜


1. 自己効力感理論の背景と社会的意義


アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)は、20世紀を代表する心理学者のひとりであり、行動主義と認知心理学を架橋した先駆者である。

彼が提唱した「自己効力感(Self-Efficacy)」は、単なる行動のテクニック論にとどまらず、人が「どう生きるか」「どう希望を持つか」という哲学的な問いにも深く関わっている。


彼の研究の原点は、「人はどのようにして新しい行動を学ぶのか」という疑問だった。

この問いに対し、彼は「観察学習(モデリング)」の重要性を提唱した。 すなわち、人は他者の行動を見て学び、それを模倣する中で、自分自身の可能性を試していくという理論だ。


しかし、それだけでは不十分だった。 なぜなら、同じように観察しても、「できそうだ」と思える人と、「自分には無理だ」と思う人がいるからだ。

そこで登場したのが「自己効力感」という概念である。


これは、人が「自分にはこの行動を遂行する能力がある」と信じられるかどうか──その“内的確信”の有無が、実際の行動の選択と持続性に大きく影響することを示した。


バンデューラのこの発見は、教育、医療、福祉、ビジネス、災害支援など、あらゆる領域で応用され、 とりわけ「自己効力感を高める支援」が、個人の変化や社会の回復力を支える核として注目されてきた。

婚活においても同様である。

たとえ経験が少なくても、過去に傷ついたことがあっても、「それでも、もう一度信じてみよう」と思える力。

それが、バンデューラの言う「自己効力感」であり、私たちが婚活者に届けたい“心の力”なのだ。


2. 「親ガチャ」「性格特性」と自己効力感の生成──希望はどこに宿るのか


自己効力感の形成において、幼少期の家庭環境──いわゆる「親ガチャ」の影響は無視できない。

バンデューラは、自己効力感の源として以下の4つの要素を挙げている:



  • 達成経験(mastery experience)
  • 代理経験(vicarious experience)
  • 言語的説得(verbal persuasion)
  • 情動的安定(emotional arousal)



このうち、達成経験を除く3つ──他人の姿を見て学び、励ましの言葉を受け取り、安心できる状況で挑戦できること──は、家庭環境や育てられ方と密接に関係している。

「何かに挑戦し、失敗し、それでも再び立ち上がる大人の姿」を目にする機会が少なければ、 子どもは「できるかもしれない」という感覚自体を知らずに育つ。

また、「あなたならできる」と言ってくれる存在がそばにいなければ、自己効力感の芽はそもそも育たない。


さらに、性格傾向──たとえば外向性や内向性──も影響を与えることがある。

外向型の人は試行の頻度が高いため、成功経験が蓄積しやすく、自己効力感が高まりやすい。 一方、内向型の人は失敗への感受性が高く、挑戦のハードルが高いため、効力感の獲得に時間がかかる。


だが重要なのは、どのような性格であっても、「モデリングの機会」と「小さな成功体験」を丁寧に積み重ねれば、 効力感は後天的に十分育てうるということだ。

性格で固定されるのではない。 経験によって書き換え可能なのだ。


だからこそ、婚活の現場においても、クライアント自身の小さな成功や、他の成婚者のエピソードなどが、効力感の源泉となりうる。

“私にもできるかもしれない”という予感は、誰かの実践によって照らされ、 それを支える関係性の中で、はじめて現実味を帯びていく。

そのとき、「親ガチャ」は超えていける。

自己効力感とは、社会的連帯の希望のかたちでもある。



(婚活メンター・ひろ)




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